筋トレの分子生物学(4)神経筋接合部における脱分極

 筋トレの分子生物学シリーズ第 4 弾.神経と筋肉との接点で何が起きているのか概説する.

https://www.nhk.or.jp/kenko/jintai/parts/muscle
神経筋接合部の電子顕微鏡写真

 神経の興奮が筋細胞を刺激して収縮させる過程を見てみよう.このプロセスには少なくとも 5 種類のイオンチャネルが関わり,プロセス全体は数ミリ秒で終了する.

神経末端

 神経末端に活動電位が到達し,細胞膜の電位依存性 Ca2+ チャネルが開口する.細胞外 Ca2+ 濃度は細胞内の 1000 倍以上あるため,Ca2+ は神経末端に流入する.神経末端の Ca2+ 濃度上昇が引き金となってアセチルコリンがシナプス間隙に放出される.

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脱分極はアセチルコリン受容体から始まる

 アセチルコリンが筋細胞膜のアセチルコリン受容体に結合すると,アセチルコリン受容体の陽イオンチャネルが一時的に開いて Na+ が流入し,細胞膜の局所的な脱分極が起こる.


©Essential Cell Biology

活動電位の発生

 局所的脱分極により膜にある電位依存性 Na+ チャネルが開いて更に多量の Na+ が流入して膜の脱分極が進む.近傍の電位依存性 Na+ チャネルが連鎖的に開いて脱分極は自己増殖的に広がり,活動電位として細胞膜全体に波及する.

T 管

 細胞膜全体に脱分極が及ぶと,筋細胞の T 管にある電位依存性 Ca2+ チャネルが活性化する.

筋小胞体

 電位依存性 Ca2+ チャネルの近傍にある筋小胞体膜の Ca2+ 放出チャネルが一時的に開き,筋小胞体に蓄えられていた Ca2+ が細胞質内に流出する.細胞質内 Ca2+ 濃度上昇が原因となって筋細胞内の筋原線維が収縮する.

単収縮と強縮

 実際の筋力トレーニングにおいて筋収縮が一瞬で終了することはなく,1 秒から数秒間持続する.この間,筋肉へのシグナルは脊髄前角の運動ニューロンの発火頻度で調整される.これを符号化レートコーディング)という.

 1 回の活動電位により起こる筋収縮を単収縮と呼び,単収縮の途中で次の活動電位が到達すれば収縮高は加算されて大きくなる.短い間隔で活動電位が繰り返されると各単収縮は滑らかに融合し,筋収縮は持続する.これを強縮という.刺激の頻度が高くなるほど収縮高は高くなる.つまり,より強い力が出る.強縮はほとんどすべての運動で起こっている.

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興奮性シナプス後電位と抑制性シナプス後電位

 1 個の運動ニューロンには数千の神経末端が入力しており,それらは大別して興奮性と抑制性に分けられる.興奮性シナプスから放出される神経伝達物質はシナプス後膜に小規模の脱分極を起こし,抑制性シナプスから放出される神経伝達物資は小規模の過分極を起こす.それぞれ興奮性シナプス後電位抑制性シナプス後電位と言う.興奮性シナプス後電位と抑制性シナプス後電位の空間的総和および時間的総和の結果,運動ニューロンは活動電位を発生させるか何もしないかが決まる.

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全か無の方式,符号化

 シナプス後電位の総和は時間とともに変化するが,最終出力である活動電位は全か無の方式に従っており,活動電位の大きさは常に一定である.ただし,活動電位の発火頻度が変わる.これを符号化レートコーディング)という.ニューロン間のネットワークでは他にも何種類かのイオンチャネルがあり,入力の強さと発火頻度の比例関係を成り立たせたり,刺激が持続した際に発火頻度を下げる順応を行ったりと符号化の微調整を行う働きがあるが,ここでは触れない.

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