筋トレで死を意識するとは

 物騒なタイトルで申し訳ない.今回はあまり学術的な話ではない.最高に調子が良い時,筋トレ中にどのようなことを考えているかの備忘録のようなものである.

危機的な状況を想像する

 虎とベンチプレスでも紹介したが,生命の危機が迫っている状況を想像するのは時に有効だ.虎に両手を押さえつけられている状況というのは,もはや絶体絶命の大ピンチである.交感神経が活性化し,副腎からアドレナリンが分泌されて心拍数を上げ,呼吸を早め,掌にはじっとりと汗がにじんでいる.

 自分自身の危機でなくても,自分に近い人の危機を想像するのでも良い.例えば,子供や配偶者などの家族.地震で家が倒壊し,大切な人が柱の下敷きになっている,という状況を想像してみてほしい.死に物狂いでその柱をどけようとするだろう.トレーニング中に床に置いたバーベルをその柱に見立てれば,デッドリフトも今まで以上に挙がる気がしないだろうか?

 あるいは,子供が背中に掴まっていて,自分は崖をよじ登ろうとしている状況を想像してみる.手を離せばもろともに落ちる.そういう状況をリアルに想像できれば,懸垂にも身が入ろうというものだ.

 ホラー作家の鈴木光司は,当時の小説家にしては珍しく筋トレをしていると著書のあとがきで述べていた記憶がある.彼もまた,家族の危機を想像してトレーニングしていたらしい.

人は虚構を信じる生き物である

 サピエンス全史で明らかになったように,人は虚構を信じる能力を身に着けたことによって文明を進歩させてきた.トレーニング中にそのような想像を自分自身に語り聞かせるのである.もちろん現実の自分はただバーベルを挙げているだけである.しかし,自分の体感としては,最高に調子が良いときは大抵,上で述べたような想像をしている.ただ,実際にパフォーマンスが上がっているかは分からない.

チームの士気を鼓舞するには

 チームの士気を鼓舞する方法として,これらの手法が有効かもしれない.そこでたとえ話をする.実際に俺が 2018 年に子供の幼稚園の運動会の綱引きで使った例えだ.

 「これはただの綱引きです.ですが,ちょっと想像してみて下さい.もしこのロープの先が崖で,その先に自分の子供が掴まっているとしたら,死ぬ気で引きませんか?」

 大切な人の死を想像させ,アドレナリンを吹き出させる事ができたようだ.手を離せば自分は助かるが,その後は決して自分を許せないだろう.手を離すくらいなら,もろともに落ちよう.そう考える人がほとんどのはずだ.

 実際には開始前にフォームのレクチャーをしており,その技術的指導のほうが効いたのだとは思う.まあその結果,幼稚園の運動会の綱引きは優勝したけどね.

綱引き必勝法

 必勝法と言えるかどうかは分からないが,相手が全くの素人ならおそらく有効な方法だ.

  1. 体は可能な限り後傾させ,体軸とロープの作る角度を小さくする
  2. 腕はロープを握るだけ
  3. リズムを作らず,ひたすらじりじりと脚で押す

 具体的な方法はこれである.要は,大腿四頭筋の仕事をダイレクトに地面に伝えることである.人体で最大の筋肉は大腿四頭筋であるが,この筋肉の仕事を最も効率的に伝達する方法が上記の 3 点に集約される.

 綱引きと言うと,掛け声とともにリズミカルに引いて緩めてを繰り返すと思っていた.だが実際にセミプロ級の試合になると,緩めたタイミングが命取りになる.味方が緩めたタイミングで敵に引かれると一気に持っていかれてしまう.緩めるタイミングを作らないことが負けないことに繋がる.だから,引いて緩めてのリズムは作らず,ひたすら脚で押す事が重要になる.

 これはレッグプレスそのものだ.敵が引いて緩めてのリズムで攻めてきてもそのまま脚を押し続ける.敵が引いても大腿四頭筋に入れる力を増やすだけで対応できる.敵が緩んだタイミングではこちらの力が勝っているので,勝手に引くことができる.それを数回繰り返せば,綱引きに勝てる.

 敵も同じ戦法で攻めてきたらどうするか?これは難しい問題だ.この場合には,チームの個人の体力の総和が強いほうが勝つ.つまり,体格の差がそのまま勝敗の結果に繋がる.だから,綱引きに勝つつもりなら,結局筋トレをして下半身を鍛えるのが正解ということになる.

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