プライベートジムのススメ

 筋トレを始めて 1 年半になる.週刊金融日記で筋トレの記事が続き,自分の中でモチベーションが徐々に高まっていた.きっかけは 2 年前に妻の実家で飼っていた犬を引き取ったことだった.毎日朝夕の散歩が日課になり,運動の気持ちよさが少しずつ体感できるようになっていた.半年後に転職し,個室が充てがわれたこともあって 5 月頃から室内で自重の腕立て伏せ,スクワット,腹筋をするようになった.

 新しい職場にはなぜかトレーニングマシンが大量にあった.チェストプレス,ローイング,レッグプレス,ヒップアダプション,ヒップアブダクション,レッグカール,レッグレイズ,腹筋.6 月頃からそちらでトレーニングするようになった.最初の負荷はチェストプレス 50 kg, レッグプレス 120 kg からだったと思う.フォームも何もあったものではなく,とにかく 10 回 3 セット挙げることが精一杯だった.

 半年後,パワーラック,プレスベンチ,バーベルセットを買った.かなりの出費だったが,直販サイトではカードの分割払いが無利子だった.24 回払いにした.しかしその後もマシンを中心にトレーニングしていた.

 新しい職場に移って 2 年目の 6 月,トレーニングマシンの使用が事実上禁止された.理由は色々あったが,要はやり過ぎたのだと思う.それを契機に自室でフリーウェイトトレーニングに移行した.チェストプレスでは 80 kg 挙げていたが,ベンチプレスは 40 kg から開始した.レッグプレスは 200 kg 押せていたが,スクワットも 40 kg から始めた.

 バーベルを扱うようになって 3 ヶ月で停滞期が訪れた.ベンチプレス,スクワット,デッドリフトいずれも 60 kg 以上挙げられなくなった.それでも週 3 回トレーニングを続けた.

 停滞期は食事を見直すきっかけにもなった.それまではひたすら食べることばかりだったが,マクロ栄養素について学び,たんぱく質と脂質,炭水化物を定量化して記録することを始めた.体重は 5 月に最大 89 kg に達していたが,それ以降は減量に転換し,現在は 83 kg まで減量した.目標体重は 70 kg だが,無理せず気長に続けていくつもりだ.

 マインドマッスルコネクションという言葉がある.今どの筋肉を動かしているのかを意識するという意味らしい.脳科学の領域では内部モデルという概念がある.『学習によって制御対象の内部モデルが小脳皮質に獲得される』というもので,要は『体で覚える』動作は小脳が学習しているということだ.この二つの概念は全く同じ事象を指していると思う.マッスルメモリーなる言葉もあるが,これは筋肉が記憶しているのではなく,脳が記憶しているのだと思う.

 体で覚える動作は日常生活に満ち溢れている.顔を洗う,歯を磨く,箸を持って食物を口に運ぶ,など特に意識することもなく行う動作のことだ.よく例に挙げられるのは初めて自転車に乗れるようになることだ.最初は何度も練習する.倒れながら,次は倒れないように必死にペダルを漕ぐ.何度も練習を繰り返すうちに,ある時突然,転ばずに自転車に乗れるようになる.この時,小脳には『自転車に乗る』という運動のモジュールが出来ている.次からは大脳が『自転車に乗ろう』と考えただけで小脳のモジュールが呼び出され,意識せずに自転車に乗れるようになる.体で覚えるとは小脳に新しい内部モデルを作ることである.

 この内部モデルは想像以上に多い.専門家と呼ばれる人たちは,修行や訓練によって動作を無意識に行うことができるレベルに達している.音楽家,武術家,外科医,アスリート.およそ筋肉を使う動作はすべて小脳の内部モデルを作り上げる作業にほかならない.

 話がそれた.筋トレを始めて数ヶ月間は面白いように負荷が上がっていくが,これは筋力が上がっているのではなく,内部モデルを構築している時期だ.停滞期とは内部モデルがあらかた出来上がり,本来の筋力と負荷が釣り合う時期なのだと思う.本当の意味での筋トレはそこからだ.

 筋トレ上級者の動きは実に滑らかだ.バーベルの軌道は直線状でブレがない.フォームが安定していると表現されるが,対象の筋肉にしっかりと負荷がかかり,スタートからフィニッシュまで完全にバーベルをコントロールしている.

 上級者ほどフォームが重要だと言う.コントロールしきれない重量を扱って怪我をしないための安全策という意味もあるが,対象の筋肉に負荷を与えるには対象の筋肉を意識していないとならないことの重要性を説いているのだろう.これは内部モデルを構築するのに必須の工程だ.内部モデルによる推定と実際の感覚のフィードバックとの差として検出される誤差は,上達するにつれて修正されていき,内部モデルをブラッシュアップしていく.上級者の脳には,初級者と比較にならないほど精緻な内部モデルができているに違いない.

 意外に思うかもしれないが,筋肉にも知覚神経はある.意識に上らないだけだ.受容体は筋紡錘という細胞で,筋線維の収縮,張力を感知して脳へ伝える働きをしている.筋肉は脳からの司令を受けて収縮しているだけの運動器ではなく,脳へ情報を返す感覚器でもあり,運動のフィードバックに重要な働きをしている.

 また話がそれた.何の話だったかな?そうそう,プライベートジムだった.

 パワーラックはアイロテックにした.バーベルセットは IVANKO, プレスベンチは TUFF STUFF にした.組み上げてみると奥行き,幅とも 2.5 m あればぎりぎり使える.使えるが,シャフトの横を通る時はしゃがんで歩かないといけない.


 アイロテックの HPM はセーフティバーとバーベルクラッチの着脱のしやすさで選んだ.本当は TUFF STUFF のが欲しかったのだが,予算の制約で・・・ブツブツ.バーベルセットはオリンピックタイプとノーマルタイプに大別されるが,オリンピックタイプは高価で・・・ブツブツ.プレスベンチだけは TUFF STUFF にした.後日,床の防音・防振目的にマットを購入した.厚さ 2 cm で 8 枚セット.カッターでラットオプションのフレーム分を切り抜いた.

 プライベートジムの何が良いかと言えば,自分一人でトレーニングできることに尽きる.公共のジムでは他にもトレーニーがいて,マシンやラックを長時間独占できない.水を飲みに行ったらマシンを取られていることもしょっちゅうだ.種目のローテーションも自由にならないことがある.営業時間内にジムに行けないこともある.冷蔵庫やシャワーが近くにない.プライベートジムではこれらの制約は一切無縁だ.

 いいことづくめのプライベートジムだが,欠点もある.初期投資にカネがかかる.場所の確保も必要だ.自宅なら小さい子供がいると奥さんが露骨に嫌な顔をする.「こんなでかいもの買ってどこに置くの?子供が怪我したらどうするの!」

 自宅でのトレーニングはモチベーションが上がらない,という向きもあるが,それは環境次第だと思う.環境さえ整えてやれば,習慣化するのは容易だ.モチベーションとカネは環境を整えるのに使うべきだ.そして一旦環境が整えば,定期的にトレーニングするだけだ.プライベートジムへようこそ!

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