都市の戦略的縮小

 数十年後に日本はどんな姿に変わっているのか.『データで見る都市の衰退』というテーマのもと,様々な角度から考察してきた.

 残念ながら,あまり楽観はできない.どちらかと言うと,悲観的な予測が優位である.ほとんどの都市は衰退していく.東京も例外ではない.

 今回は参考図書を読んで日本の住宅事情およびその背景にある核心的問題について考察を述べる.これは誰も触れようとしない聖域である.

国土のグランドデザイン2050を読む

サービス施設の立地する確率が 50 % および 80 % となる自治体の人口規模

 参考図書の「地方消滅-創生戦略篇」でも引用されているが,「国土のグランドデザイン 2050 参考資料[1]」の 35 – 36 ページに掲載されている.

「国土のグランドデザイン2050 ~対流促進型国土の形成~」
「国土のグランドデザイン2050 ~対流促進型国土の形成~」

 データポイントは小売り 7 件,宿泊・飲食サービス 6 件,生活関連サービス 7 件,金融 3 件,学術研究,教育・学習支援 6 件,医療・福祉 13 件,対企業サービス 6 件の合計 48 ポイントである.

 電力,水道,通信,警察や消防はインフラとして扱われるため掲載されていない.

サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模
サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模

 このチャートは総務省,厚生労働省,日本救急医学会,wellness HP, 日本ショッピングセンター協会,日本百貨店協会,メルセデス・ベンツ,フォルクスワーゲン,BMW, スターバックスコーヒーの資料をもとに国土交通省が作成したものである.

 それぞれの施設は,ある程度の人口規模がないと経営が成り立たず,立地確率が 50 % を割り込むと撤退する,という意味である.安定して経営が成り立つには立地確率 80 % 以上の人口規模がないといけない,ということも読み取れる.

 つまり,新規出店には立地確率 80 % 以上の人口の都市を選ぶ必要があり,立地確率 50 % となる人口まで減少したら撤退する,という戦略が成り立つ.実際にはもっと複雑な経営判断が行われているはずだが,概ねこのような判断結果になるはずだ.

横軸の目盛りがバラバラ

 さて,チャートの最下部,軸の目盛りに注目する.階級幅に規則性がないことが分かる.1 万人までは 2000 人ずつ,それ以降は 1, 2, 5, 10 という階級幅で作成したように見える.なんちゃって対数グラフである.これはまずい.

 そのため,階級幅をもう少し厳密にする.横軸の最小値が 500, 最大値が 50 万であるため,底を 5 とする対数にするのがよいだろう.人口ごとの都市数を集合縦棒グラフで描くで述べたが,原子から法人まで,自己組織化するものはべき分布に従う.

 主要目盛りは 500, 5000, 5 万,50 万ということになる.何等分するかは状況に応じて決めれば良い.ここではこれ以上深入りしない.各自への宿題としておこう.

人口移動の主因は地方の雇用の喪失

 一口に少子高齢化と言っても,大都市と地方とではその位相が異なる.

 地方ではすでに,少子化と同時に高齢者人口の減少が始まっている(増田).地方では医療介護など高齢者を支える産業従事者の割合が高く,医療介護産業は地方の若者の雇用の場となっていた.

 高齢者の絶対数が減少に入ったということは,これらの若者の雇用が失われていくということを意味する.その結果,医療介護従事者は雇用先を求めて大都市へ移転することになる.

 高齢者の絶対数の減少は消費の減少でもある.生活に必要な店舗が経営が成り立たず倒産していく.

救命救急センターが成り立つには人口 22.5 万が必要

2040年の医療介護受給見通し(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)
2040年の医療介護受給見通し(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)

 急病を発症した際には,救急車を要請する.しかし,最初の搬送先は最寄りの救急告示病院,つまり 2 次救急病院である.当直医がその疾患の専門でなかった場合や,検査の結果,脳出血や心筋梗塞など,生命に直結する疾患であると診断された場合には,高次医療機関,つまり 3 次救急病院に再度搬送することになる.これが救命救急センターである.

 医療圏という考え方がある.拠点となる 2 次救急病院を中心とした地域単位を二次医療圏,3 次救急病院を中心とした地域単位を三次医療圏という.三次医療圏は二次医療圏の上位にあり,文字通り「最後の砦」としての役割を果たす.この医療圏の人口が上記チャートにほぼ対応する.

 医療崩壊の進行の程度も地域によりさまざまである.おそらく,救急告示病院の中には正職員の医師数ではまかないきれず,夜間休日の当直をアルバイト医師でやり繰りしている所も多いはずだ.そういった医療機関はもはや崩壊の瀬戸際にある.

 誰か一人が当直に入れなくなっただけで診療体制が崩壊する.産科,小児科,外科などはすでにその危惧が現実のものとなっている.少子化だから小児科は需要が減っていると思っているのか?それ以上になり手が減り,過労死レベルを遥かに超えて働き続ける医師をこれ以上鞭打つのはやめてほしい.

都市を居住エリアと非居住エリアに分割せよ

なぜ非居住エリアを設定する必要があるのか

人の移動を支えきれない

 日本では移動を自動車に頼っている.戦後の産業復興が自動車を生産し国内で購入することで成り立ってきた面は否めない.しかし,高齢化に伴い自動車の運転そのものが困難になりつつある日本人が増えてきている.自分で運転できなければ公共交通機関に頼ることになる.

 しかし,人口の減少は運転手の高齢化・減少をも意味する.自動運転の試験が試みられつつあるとは言え,大半の公共交通機関が自動運転にならない限り,現在の高齢者の移動の需要を満たすことはできない.

 大半の公共交通機関は赤字で廃線も相次いでおり,買い物,役所での手続き,医療機関の受診など,文字通り生活のための移動が困難になりつつある.

物流を維持できない

 Amazon に代表されるネット通販は便利である.しかしながら,その利便性は物流会社の貢献によって支えられていることを忘れるべきではない.

 ここでも人口減少は運転手の高齢化・減少という形で影響してくる.仮に自動運転が実現したとしても,路肩に停めたトラックから玄関までの荷物の運搬を誰が担うのか?

 再配達も深刻な問題になっており,物流コストの何割かが再配達により失われている.

 将来は,注文した商品が予定の日時を過ぎても届かないという事態が現実のものとなる.おそらくは即日配達と翌日配達が Amazon Prime の注文画面から消えることになる.

インフラを維持できない

平成27年の都道府県別の管路経年化率(厚生労働省医薬・生活衛生局水道課「最近の水道行政の動向について」)
平成27年の都道府県別の管路経年化率(厚生労働省医薬・生活衛生局水道課「最近の水道行政の動向について」)

 代表は上下水道である.すでに老朽化が進み,大規模な改修が必要な設備が全国にある.しかし,予算が不足して改修が進んでいない.かつて水を巡って村同士が深刻な争いを引き起こしてきた歴史を紐解くまでもなく,水は文字通り市民の生命に直結する.

 水の問題は古くて新しい問題である.

電力広域的運営推進機関「電力需給及び電力系統に関する概況」より広域連系系統の制約マッピング
電力広域的運営推進機関「電力需給及び電力系統に関する概況」より広域連系系統の制約マッピング

 送電網の維持にもコストがかかる.2019 年 9 月の台風 15 号により,千葉県が壊滅的な打撃を受けたことは記憶に新しい.電柱が根こそぎ倒れるという事態は文字通りインフラの壊滅である.復旧には長い時間を要する.

 電力広域的運営推進機関報告書・取りまとめによると,停電戸数と停電時間にはほぼ正相関が認められる.下図は電力広域的運営推進機関の公表している低圧電力の事故停電実績を基に散布図にしたものだ.停電復旧に 3 日を要したのは 2010 年度の東北電力である.

全国10社の需要家停電実績(筆者作成)
全国10社の需要家停電実績(筆者作成)

 東北電力は 1000 年に一度の震災ということで,これを除外したものを示す.沖縄電力の停電回数と停電時間が長い.もちろん,台風の影響である.沖縄では停電が日常化していると考えられる.保守要員が不足してくると,停電が沖縄並みに日常化する可能性がある.

需要家停電実績(東北電力を除く.筆者作成)
需要家停電実績(東北電力を除く.筆者作成)

 国土交通省の「国土のグランドデザイン 2050」を読むと,「インフラ」という単語が 43 回出現する.メンテナンスに対して危機感があることは分かる.だが,前後の文脈を見ても具体的な方策が見えてこない.

 インフラを維持するにも人の介在は不可避だが,その人手そのものがいなくなっていく局面で,どうやってインフラを維持するというのだろう.会社から現場までの物理的な移動距離そのものを短縮しない限り,故障した設備を復旧させるまでの日程が遅れるばかりである.

防災の観点から

 インフラの維持でも述べたが,老朽化したインフラはいずれ使用が困難となる.特に洪水による被害は深刻である.地震はいつ起きるかわからないが,洪水の起きる時期は決まっている.歴史的には春の雪解け,夏の梅雨,秋の台風である.

 当然のことであるが,水源から遠い地区ほど復旧が遅れる.上水道施設に近いほど復旧が早い.都市の衛生環境が大きく改善したのは水道の普及によるところが大きい.生活圏は上水道施設周辺に限定すべきではないか.

野生動物の侵入

 毎年秋になると熊の生活圏への侵入が話題となる.四国九州ではツキノワグマはほぼ絶滅したと考えられており,本州のツキノワグマと北海道のヒグマが課題となる.

 熊の他にも猪,鹿,猿などの野生動物が人の生活圏を脅かしている.野生動物の駆除が行われているところは人間と野生動物が圏域を争う最前線でもある.環境省の捕獲鳥獣数の統計をグラフにするを参考にされたい.

 しかし,猟師の高齢化・減少は駆除を困難なものにしている.人間は徐々に野生動物にその領地を蝕まれつつある.

都道府県別のシカ,イノシシ,クマの捕獲数
都道府県別のシカ,イノシシ,クマの捕獲数

伸びきった兵站

 以上述べた現象は,人間の住むエリアが広く点在しているために起きる.我々の社会は,物理的に広く散らばりすぎている.住居を集約し,人の移動と物流を最小限の距離に抑制し,インフラを集約しないと,もはや社会を維持することはできない.

 繰り返すが,物理的な距離を集約しないと社会を維持できない.早い話が,拠点地域に引越せということである.

戦略的縮小とは

 政府の文書にはスマートシティだとかコンパクトシティだとかカタカナで総花的に記述されているが,全くピンとこない.

 河合雅司は「戦略的に縮む」と述べている.

阻害要因は住宅の新築

 住宅建築は業界にとっても自治体にとっても甘い果実である.その経済規模が大きいために,未だに住宅の新築は続いている.しかしそれは「口に甘いが腹には苦い」果実である.

 一軒の住宅を建築すると数千万円の売上がハウスメーカーにもたらされ,関連する企業にも売上が行き渡る.これほど美味しい話はない.自治体には固定資産税という旨味があり,人口が増えれば市民税が入ってくる.銀行にはローン金利という収益がもたらされる.

 しかし,空き家の増加が問題となっている.子供は都会へ出ていき,高齢夫婦だけの住む古い住居もいずれは住む人がいなくなり,空き家と化す.子供が相続して撤去してくれればまだ良いが,相続手続きが行われず,所有者不明となっている空き家が増加している.そもそも子供がいない場合,相続者そのものが存在しない.このような空き家は結局,自治体が税金を投入して撤去することになる.

 この構図は国民全員が被害者である.得をしているのはハウスメーカーと関連企業だけ.これでは税金を使った住宅業界への利益誘導ではないか.これはおかしい.

野放図な宅地開発を禁止すべし

 諸悪の根源は野放図な宅地開発である.人口減少局面においては綿密な都市計画のもとに住宅を新築できる地域を制限しなければならない.さもないと住宅市場は大規模なバブルの崩壊を起こすことになる.

 これは何かに似ている.漁業である.総量規制が形骸化し,早いもの勝ちとなった結果,幼魚まで乱獲して価格の下落を招いている.ノルウェー産のサーモンの例を挙げるまでもなく,日本の漁業が失敗していることは明らかだ.

高気密・高断熱住宅のみ新築を許可すべし

 日本の住宅の断熱性はクソだ!でも述べたが,日本人に脳血管疾患が多い原因の一つはお粗末な住環境にあると俺は見ている.

 地震の多い地域ゆえ,在来軸組工法が迅速な再建に適していたという側面はあるかも知れない.しかし,建築基準法の度重なる改定により,日本の住宅の耐震性は飛躍的に改善してきた.パリ協定に基づき,二酸化炭素排出量の規制という全く別の側面から,2020 年から高気密・高断熱という住宅の高性能化を義務づけるチャンスがあった.しかし,結局その規制は見送られることになった.住宅メーカー側が対応できないというのが理由だった.

 俺はこの規制見送りが長期的には日本人の死因から脳卒中が減らない原因になると見ている.暖房をつけた部屋や浴室だけが暖かくても,廊下や脱衣室が寒ければ簡単にヒートショックを起こす.

 高気密・高断熱住宅では家の中で凍えるということ自体がありえない.老朽化した住宅は中古市場に流さず,さっさと撤去すべきである.その費用を誰が拠出するのかは別の問題である.

 住宅新築の許可は高気密・高断熱に限定すべきだ.医療費・介護費を含めた社会保障費の伸びを抑制するためには,住環境の改善が不可欠である.

非居住エリアでは税制優遇措置の適用除外と受益者負担への同意とを建築許可とのセットにすべし

 問題の核心に入る.現在,政府は景気対策として住宅ローン減税を行っている.また,市区町村は独自に住宅ローンに対する補助を行っている.

 これらの税制上の優遇措置は,居住エリアに住宅を新築する場合に限定すべきである.また,電気料金及び上下水道料金は,非居住エリアでは受益者負担を原則とした料金体系に改めるべきである.そしてこれらの制限を建築許可と不可分としなくてはならない.

 非居住エリアに住宅を新築するなら,国の住宅ローン減税も自治体の住宅ローン補助も受けられない.また,居住エリアに比べて割高な電気料金と水道料金を負担する必要がある.これに同意しないなら建築を許可しない.

 建築許可と書いた.建築確認申請ではない.現在,住宅の建築に許可はいらない.確認申請だけである.これを許可制にする.

 これが現時点で俺の思いつく都市設計の肝である.

財産権の一部制限まで踏み込まざるを得ない

 当然,上記の提案は強い反発を受けるだろう.供給を絞れば価格の高騰を招く.貧乏人は家を建てるなと言うのか.中小の工務店はどうなる.第一,今住んでいる住民との利害関係が悪化しかねない.景気がさらに悪化する…

 だが,冷静に考えればこれ以外の選択肢は存在しない.

 現在,住宅市場は明らかに供給過剰だ.供給過多になれば価格は下落するはずなのに,戸建て物件の価格が維持されている.これには何らかの意図があると思われるが,しかしこれはバブルである.いずれ崩壊することは避けられない.逆に聞きたいのだが,人口が減少していく局面で土地や住宅の資産価値が維持されると考える根拠は何か?

 日本人は日本国憲法のもとにある.憲法では財産権(29 条 1 項)が認められており,また居住移転の自由(22 条)が認められている.

 資産価値の源泉は財産権にあると考えられるが,財産権は公共の福祉のために制限されることもある(29 条 2 項).災害予防(消防法および宅地造成等規制法)のために私有財産を制限できるのである.このあたりの法解釈が問題になってくるだろう.

 「憲法違反だから,ありえない」多くの人はそこで思考停止する.なぜなら,これは我々が基本的人権の一つを捨てることを意味するからである.だが,ルールが現状に合わなくなってきたのならルールの方を変更するのが合理的な行動だ.

 居住エリアおよび非居住エリアの設定は,居住移転の自由に反するとの指摘はもっともである.だが,実際に電柱の倒壊が放置されて停電が長期化し,漏水のために不十分な量の水しか供給されない地域に誰が住みたいと思うだろうか?それは近い将来,十分にありうる未来なのだ.

 非居住エリアとは電気と水道のいずれかもしくは両者が維持できなくなった地域のことである.

建築費用に解体費用を組み込む

 いわゆる家電リサイクル法の施行以降,大型家電を廃棄するには料金がかかるようになった.これを住宅でも義務づけるべきである.新築時にはもちろん,中古住宅の売買価格にも上乗せすることを罰則付きで義務づける.

 家電リサイクル法に問題がないわけではない.不法投棄の増加である.だが住宅は移動できないから不法投棄は困難である.空き家が問題になるのは撤去費用を捻出できないためである.ならば建築時に撤去費用をあらかじめ負担する方法にすれば良い.

 これを言い出すとまた経済が萎縮するという反論がくるだろう.だが,現状を放置すれば空き家は全住宅戸数の 3 分の 1 に迫る勢いであり,この撤去には結局税金を投入することになる.空き家を放置すればスラム化して犯罪の温床となり,治安の悪化から市民が逃げ出すことになる.そうなれば市の税収がさらに減ることになるが,それで良いのか?

 税金を投入して住宅業界へ利益誘導するというモラルハザードをこれ以上許してはならない.関連省庁には関連法案を吟味してもらいたい.

空き家撤去への税金投入はすべての規制が導入された後でないと無意味

 さらに重要な点を述べる.現在空き家の撤去には,なし崩し的に税金を投入せざるを得ない状況に陥りつつある.いずれは大規模な撤去工事が必要になると思われるが,ちょっと待ってほしい.

 居住エリアの設定,建築確認申請から建築許可制への移行,高性能住宅の義務化.非居住エリアでの税制優遇措置の撤廃とインフラ料金の受益者負担原則.住宅撤去費用の前負担と中古売買価格への上乗せ.

 これらの規制がすべて実施されてからでないと,撤去への税金投入はさらなるハウスメーカーのモラルハザードを誘発する可能性がある.「来年から住宅撤去費用が新築費用に上乗せされます.家を持ちたいなら今年のうちに」

経済学者による十分な検討が必要

 これらの規制により,住宅の資産価値は十分に担保されるようになる.ウサギ小屋と揶揄された日本の住宅が国際的な基準に伍するためには,これらの規制が絶対に必要である.

 当然,これらの規制に対応できない工務店は淘汰されていく.だが,人口が減少していく今後,従業員や後継者の不足に悩んでいるのはむしろそのような中小の工務店ではないのか?

 高品質の住宅を作れるハウスメーカーだけが生き残り,そうでないところは倒産していく.それが健全な社会のあり方ではないのか.

 当然,反論もあるだろう.俺は経済学が専門ではない.こういった規制が行われた結果,日本経済がどうなっていくのかは専門家でないと予想が難しい.

 国の資料を読んでも核となる制度がさっぱり見えてこない.だから,叩き台を作った.これを機に,専門家の議論が発展することを願う.

どこを居住エリアとするか

災害難民が都市に押し寄せる

 繰り返すまでもなく,日本は災害大国である.地球温暖化に伴い,暴風雨の脅威がかつてないほどに高まっており,それは今後さらに悪化していくと懸念されている.

 今はまだ良い.被災した地域を支援する余裕がある.だが,毎年台風 15 号台風 19 号のような暴風雨による災害が続くとしたらどうだろうか?いずれ被災した地域を支えきれなくなる.

 想像してみてほしい.支援が次第に行き渡らなくなり,仮設住宅の建設もままならず,住宅を失った市民が難民化して徒歩で都市に押し寄せるところを.そして野生動物が被災した地域に現れ,支援のために届いた食料を奪っていくのをなすすべもなく見守るしかないとしたら.それは,人間が自然に敗北した瞬間である.

 これは災害難民である.

 現在,国内で仮設住宅で生活しているすべての人口は不明であるが,国際的な基準で言えば,これらの人たちは災害難民つまり国内避難民の定義に合致する.しかし,日本政府は仮設住宅で生活している人を国内避難民とは認定していない.法律による定義がないためである.

 仮設住宅といえばあまり危機感が感じられない.しかし,難民キャンプと言えばその深刻さが理解できるだろうか?難民キャンプはすでに国内の被災地にいくつも出現している.

 現在は自衛隊が最終防衛ラインとして機能している.しかし,自衛隊員の高齢化の結果,国内で対応しきれなくなった時には,日本は国連難民高等弁務官を通じて国際社会の支援を仰ぐ必要が出てくる.

緒方貞子.2019年10月22日死去 https://www.unhcr.org/jp/sadako_ogata より
緒方貞子.2019年10月22日死去 https://www.unhcr.org/jp/sadako_ogata より

防災の観点から

 2019 年の台風 19 号により全国で洪水が発生した.その際,自治体のハザードマップの正しさが改めて証明されることとなった.都市計画,特に宅地開発においてはハザードマップに基づく規制を義務づけるべきである.

 浸水被害の可能性の高い地区には住宅建築を許可してはならない.いや,それどころか撤退すべき危険地帯として周知すべきである.住宅業界の欺瞞はこのような危険な地区を上モノの美麗さでごまかして表面的な資産価値を演出してきたことにある.今後そのような欺瞞は自然災害の前に残酷なまでに暴かれていくだろう.

 そのような欺瞞を表すぴったりの日本語がある.「砂上の楼閣」と言う.

インフラ維持の観点から

 現代において依存するインフラは多い.電力,上下水道,ネットを始めとする通信,物流,交通,医療,警察,消防.

 人口減少および少子高齢化はすべてのインフラの従事者に容赦なく襲いかかる.それは災害復旧の遅れという形で表れてくる.そして災害復旧の速度を次の災害が上回った時,その地域は崩壊する.

 人が老化すると末梢から血流が途絶えていくのと同じで,都市のインフラも末梢から壊死していく.

 上水道は給水施設から最も遠い地区から順番にやられていく.下水はまだ良い.大都市の下水にはまた特有の問題はあるが,基本的に重力に従って流れていくだけだからである.上水道は文字通り都市の動脈であり,水道管の老朽化は動脈硬化そのものである.

 電力や通信は地上の設備であるからまだ融通がきく.しかし水道管は地下にある.工事のためには道路を掘削し,配管を交換して埋め戻し,再舗装する必要がある.その間道路は通行止めとなる.

 地下設備の工事にはコストも人手もかかる.土木業者が果たしてその時,十分な従業員と重機を所有しているだろうか?土木業者そのものが存在しているだろうか?

 俺はどこかで,水道管のバルブを閉めなければならないポイントがあるのではないかと思う.「ここより先には上水道は供給されません」

憲法違反ではないかとの指摘に対して

基本的人権としての財産権および居住移転の自由

 財産権の制限について述べたついでに,居住移転の自由についても述べておこう.これは下記参考図書のうち,「人口減少社会のデザイン」の冒頭で引用された AI によるシミュレーションのもう一つの選択肢である地方分散型へ誘導するための法的根拠を考察する上で,どうしても避けて通れない問題である.

 現在政府は東京都内の一部の私立大学に対して,補助金を交付しない方針である.その理由は,定員に対して大幅に入学者数を増やすことを抑制するためであるとされている.

 批判はあるが,大学進学を機に地方から東京へ向かう人口移動の一部を抑制するという意味では,ある程度成功していると言えよう.

 これが,就職者数を抑制する段階を経て,居住移転の自由を制限するという最終段階に至ると,憲法違反である可能性が高くなってくる.しかし,政府が本気で地方分散を目指すなら,この方向で行くしかないことは明らかだ.

 多くの人はここで「憲法違反だから,ありえない」と思考停止するが,大事な論点なのでもう一度言う.ルールが現状に合わなくなってきたのなら,ルールの方を変更するのが合理的な行動だ.

 断言しておくが,ここで思考停止する人間にはリーダーとしての資格はない.人の上に立つには,先の先を見通す想像力が要求される.今あるルールを疑う能力である.何のためか?生き残るためだ.憲法という聖域に踏み込むことなしに,この問題は解決しない.

 安倍政権の任期も残りわずかであるが,憲法改正を目指す自民党が,第 9 条だけでなく,第 22 条の居住移転の自由や第 29 条の財産権に手をつけないという保証など,どこにもないではないか.

 だから我々は近い将来,次の選択肢のうち,どちらかを選ばなくてはならなくなる.

居住移転の自由を制限して人口を維持するか?それとも,居住移転の自由を保護して人口急減を受け入れるか?

 吐き気を催すような悪夢であるが,これが我々の選択肢である.どちらを選ぶかによって,この国の未来は変わってくる.現状通り,人口の都市集中を追認するなら居住移転の自由を保護する替わりに人口が急減する未来を選んだことになる.政府の目指す地方分散に方向転換するなら,居住移転の自由を放棄することに同意しなくてはならない.

 どちらの選択肢を取るにせよ,財産権の制限には同意せざるを得ない.両方を残すことはもうできない.そんな余裕など我々にはもはや残されていない.

日本国憲法は,日本人には過ぎた憲法だった

 明治維新から 150 年あまりが経過し,日本の人口は 3000 万から 1 億を超えるまでに急増した.それが今後 100 年かけて元の人口規模に収縮していく.過ぎてみれば,ただそれだけのことである.それをもって「日本が滅びる」と言うなら,俺はこう言おう.

「我々は今まさに滅びつつある」

日本の人口の長期的推移(国土交通省国土計画局作成)
日本の人口の長期的推移(国土交通省国土計画局作成)

 第二次世界大戦に敗北し,日本は米国から日本国憲法という世界に類を見ない平和憲法を与えられた.それは自由と人権を高らかに謳った,世界に誇るべき憲法であった.

 しかし,その運用は実にお粗末で,結局,その真髄である自由と人権の理念は日本人に根付かなかった.血を流すことでしか自由の価値は理解できない.その一文を憲法に記すために,かつてどれほどの命が散っていったか,我々には結局理解できたのだろうか?

 2019 年から始まった香港での抗議活動も 2020 年を迎えている.いずれ中国共産党により鎮圧され,中国の正史には「香港内乱」として記録されることになるのだろう(2020 年 6 月 30 日,いわゆる香港国家安全維持法が可決成立し即日施行された).しかし,香港市民が示した自由及び権利への不断の努力を,我々はしてきたのだろうか.民主主義と自由を謳ったはずの日本においてではなく,一党独裁制の中国の一都市において日本国憲法 12 条の理念を見せつけられたとは,何とも皮肉な話ではないか.

 日本国憲法は日本人には早すぎたのだ.我々は自由と人権を自ら捨て去った後に,その尊い価値を懐かしがるのだろう.

我々はより良い社会を子どもたちに残すことができたのだろうか?

 その問いに答えを出すのは今を生きている我々ではなく,まだ生まれてこない我々の子孫である.すべての日本人はそれを自らに問いつつ,今を生きて行くほかないのだ.

30 年後の人口分布

 国土交通省が予測している.赤は増加,薄い青は 50 % 未満減少,濃い青は 50 % 以上減少,灰色は人がいなくなり非居住地化する地域である.

法の整備よりも現実が先行する

 法整備には時間がかかる.上記で述べた憲法改正云々よりも,現実の人口減少が先行し,関連するあらゆる経済指標がその後を追うだろう.我々はまず,この事実を受け入れなければならない.

2050年の総人口の増減状況(国土交通省第8回『新たな「国土のグランドデザイン」構築に関する有識者懇談会』配布資料より)
2050年の総人口の増減状況(国土交通省第8回『新たな「国土のグランドデザイン」構築に関する有識者懇談会』配布資料より)

100 年後は江戸時代の人口分布に酷似する

 人口 3000 万人という数字はにわかには想像し難い.だが,我々は歴史に学ぶことはできる.その人口規模は江戸時代に酷似している.何も政治形態まで江戸時代に戻せと言っているわけではないが,人口の分布はおそらく似たものとなるに違いない.

 都市の規模や経済規模も現在よりは間違いなく縮小するが,防災やインフラの維持という観点から,また地理的制約から,都市の位置や規模もまた江戸時代に似たものとなるだろう.具体的には,古くから残ってきた集落がその中心となる.

 消滅していく集落は森林に還り,野生動物がその主となる.送電網や高速道路,鉄道網への野生動物による被害を防ぐことが当面の課題となるだろう.

参考図書

 参考にした書籍は以下の通りである.注意しないといけないのは,著者の立場によって読者を偏った結論に誘導している,という点だ.事実と主張を切り分けて読むことが求められる.

増田寛也

 Wikipedia によると東京大学法学部卒業,最初の職歴は建設省で,千葉県警交通指導課,茨城県企画部,建設省河川局,岩手県知事,総務大臣,内閣府特命担当大臣,郵政民営化担当大臣,総務大臣を経て東京都知事選に出馬するが落選,2019 年日本郵政株式会社社長に就任と華々しい経歴である.

 彼の著書を読むには細心の注意を要する.データとして引用している事実と,政治家としての主張とを切り分けないと容易に籠絡される.

地方消滅-東京一極集中が招く人口急減

東京消滅-介護破綻と地方移住

地方消滅-創生戦略篇

 23 ページから 30 ページにかけて『コンパクトシティ化は避けられない』との章題で増田寛也と冨山和彦との対話がある.「中国や北朝鮮とは違うのだから,農村から都市に人々を強制移住させることはありえない」と言っている.しかしよく読むと,結局人を都市に集中させるべきであると言っている.

 経緯はどうあれ,結局人を都市に集約させないとインフラを維持できないと認めている.

河合雅司

 Wikipedia によると中央大学卒業後,産経新聞に入社,内閣官房有識者会議,厚生労働省検討会,農林水産省第三者委員会の各役員,日本医師会「赤ひげ大賞」選考委員を務める.大正大学客員教授でもある.

 少子高齢化の影響について「2040 年代初頭に団塊ジュニア世代が低年金・無年金化する」いわゆる「2042 年問題」が起きると予測している.

未来の年表 人口減少日本でこれから起きること

未来の年表2 人口減少日本でこれからあなたに起きること

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること

NHKスペシャル取材班

縮小ニッポンの衝撃

 NHK スペシャル取材班による日本の市町村の取材記録である.対象は東京都豊島区,北海道夕張市,島根県雲南市,島根県益田市,京都府京丹後市,神奈川県横須賀市.

 第2章,第3章で取り上げた夕張市の現在の姿は日本の未来そのものである.そこでは行政が空き家を誘導する「政策空家」が現実に施行されてきたことが分かる.市営住宅を修繕しない,引越費用を負担しないなど,公式には存在しないとされてきたが,2016 年 3 月ついに夕張市は政策空家を正式に決定した.

 この行政の論理と住民の利害は決定的に相反する.言葉では否定しつつ,行動は着実に実行する.「痛みを伴う縮小」の現実はそこにある.

 「自治体の都市インフラ整備維持収支計算プログラム」は北海道立総合研究機構・北方建築総合研究所の開発した地域により行政コストを視覚化するプログラムである.「居住誘導区域」と「区域外」とを区別し,「切り捨てる地域をどう選ぶか」という核心的命題に踏み込んでいる.

広井良典

 Wikipedeia によると東京大学文科一類入学,教養学部卒業後は東京大学大学院総合文化研究科で博士課程を修了し厚生省に勤務,マサチューセッツ工科大学院留学,千葉大学法経学部助教授,マサチューセッツ工科大学客員研究員,東京大学先端科学技術センター客員助教授・客員教授,千葉大学法経学部教授を経て京都大学こころの未来研究センター教授を務める.

 この人の著作も気をつけて読む必要がある.事実と主張とを切り分けて読まないと籠絡される.

人口減少社会のデザイン

 冒頭の「AI が示す日本社会の未来」を読むためだけに買ったような書籍である.結論だけ先に書いておく.

「都市集中型」シナリオか「地方分散型」シナリオかの分岐が最初で最大の分岐点である.この分岐は 2019 年から数えて 8 – 10 年後に発生し,以降は両シナリオが再び交わることはない.

 いいか,日本の将来が決まるのは 2027 年から 2029 年だ.もうその頃には決着がついている.復帰不能点を超えるということだ.そして持続可能性という点では都市集中型は破局型に分類される.本書の 25 ページにその具体的な結果が表として示されている.「もう時がない」

 後半,哲学について語った大半の章に読む価値はない.死生観など団塊世代の老人にでも食わせておけ.

 東大出身の偉い先生方は理想ばかり語る.持続可能な社会を目標としたいのは分かるが,現実はそうは行くまい.詳細は本書を読んで各自で考えてほしい.

木下斉

 Wikipedia によると早稲田大学政治経済学部卒業,一橋大学大学院商学研究科博士課程を修了し経営学修士となる.高校生時代より商店街活性化の才能を発揮し,高校3年生において株式会社商店街ネットワーク取締役社長に就任,大学院卒業後は熊本城東マネジメント株式会社を設立,代表取締役に就任している.内閣府政策調査員などさまざまな役を歴任し,全国10か所以上の再生プロジェクトに関わる.

 この書籍はブロガーのちきりん (@InsideCHIKIRIN) の紹介である.彼女自身はマッキンゼー出身とされており,資本主義の権化のような一面はあるものの,民間の活力を最大限に活用するという意味では地方創生の一つの解決策を示していると言える.

稼ぐ町が地方を変える-誰も言わなかった10の鉄則-

 さて,本書ではまちの再生には不動産オーナーの覚悟が不可欠であると説く.不動産オーナーが土地を売り抜ける時は街を捨てる時であるとも.また,補助金は麻薬であるとも言い,せっかく立ち上がった民間組織が補助金がついてしまったために瓦解していった様が描かれている.

 通底する理念は,民間と行政とは緊張感をもって連携すべしということだ.

 キーワードは Business Improvement District (BID), 共同契約,粗利 50 % である.

 疑問がないわけでもない.例えば,利益を地域外に流出させないために全国チェーン店を排除することや資金を地元で調達することなど,金融を地域内で完結させることである.地方銀行や信金など,金融機関の統廃合が予想される中で,金融だけが地域単位で独立してやっていけるか,果たして疑問である.

安宅和人

シン・ニホン

 2020 年 2 月 20 日発刊されたばかりである.長大な書籍であるが,目次をめくっていて次の章が目についた.

憲法 25 条の解釈は正しいか

 「憲法 25 条の解釈は即座に改めるべきだ」と明記している.その理由は,霞が関の官僚が「国という事業全体が未来にミニマムな投資ができない状態でも,この条文があるから年金や医療費は,若者の未来や未来の国力強化のためのリソース投下を犠牲にしてまで最優先されるべき」と考えているからである.

 この解釈はおかしい.日本人全体が,老人を養うために子供への投資ができないと考えている.ここを変える必要がある.

“都市の戦略的縮小” への1件の返信

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