そもそも電力事業者の従業員数はどれだけなのか?
ヒントは経済産業省の平成29年度電力市場環境調査にあった.20 ページに就業人員の調査という項目があり,その下に統計データからの推計値がある.
日本標準産業分類で 331 電気業が 142800 名,日本標準職業分類で 641 発電員・変電員が 32800 名とある.これは 2015 年の国勢調査に基づいている.なら,次は元のデータに当たろう.
国勢調査を調べる
正確な数値は国勢調査/平成27年国勢調査/速報集計/抽出速報集計/00810/従業上の地位(7区分),職業(小分類),男女別15歳以上就業者数にある.
年齢階級別の従業員数が知りたいなら 00900/産業(大分類),職業(大分類),年齢(5歳階級),男女別15歳以上就業者数(総数及び日本人)にあるが,日本標準職業分類による分類ではなく,もっと大まかな分類になる.
都道府県別に人数が知りたいとなると,00820/従業上の地位(3区分),職業(中分類),男女別15歳以上就業者数を参照することになる.
どの統計を取っても,今ひとつ踏み込みが足りない.なにか一つの指標を正確に取ると,他の二つの指標の精度が荒くなる.
高齢化を見たいなら年齢階級を優先する
表番号 00900 の「産業(大分類),職業(大分類),年齢(5歳階級),男女別15歳以上就業者数」を使うことにしよう.
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表章項目
15 歳以上就業者数一つだけなのでこのまま触らない.
産業分類_2015
22 ある産業分類のうち,F 電気・ガス・熱供給・水道業,G 情報通信産業,H 運輸業,郵便業,P 医療,福祉をチェックする.
男女別_2015
男,女のチェックを外し,総数のみとする.
職業分類_2015
特に触らない.
年齢_2015
総数(年齢)のみ外す.
国籍_2015
特に触らない.
地域 (2015)
特に触らない.
時間軸(年次)
特に触らない.
レイアウト設定
「列」に「産業分類_2015」を,「行」に「時間軸(年次)」「年齢_2015」の順に配置する.その他は「ページ上部(欄外)」に配置する.
操作していて分かると思うが,これは EXCEL のピボットテーブルと同じである.
産業構造の変化
産業の大分類の変遷を見ていくと,産業構造の変化がわかる.特に 2000 年から 2005 年にかけては第3次産業の分類が細かくなり,これまでサービス業と呼ばれた業態が細分化された.
1990 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2015 |
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農業 | 農業 | 農業 | 農業 | 農林業 | 農林業 |
林業 | 林業 | 林業 | 林業 | ||
漁業 | 漁業 | 漁業 | 漁業 | 漁業 | 漁業 |
鉱業 | 鉱業 | 鉱業 | 鉱業 | 鉱業 | 鉱業 |
建設業 | 建設業 | 建設業 | 建設業 | 建設業 | 建設業 |
製造業 | 製造業 | 製造業 | 製造業 | 製造業 | 製造業 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 電気・ガス・熱供給・水道業 |
運輸・通信業 | 運輸・通信業 | 運輸・通信業 | 運輸・通信業 | 情報通信業 | 情報通信業 |
運輸業 | 運輸業 | ||||
卸売・小売業 | 卸売・小売業 | 卸売・小売業 | 卸売・小売業 | 卸売・小売業 | 卸売・小売業 |
金融・保険業 | 金融・保険業 | 金融・保険業 | 金融・保険業 | 金融・保険業 | 金融・保険業 |
不動産業 | 不動産業 | 不動産業 | 不動産業 | 不動産業・物品賃貸業 | 不動産業・物品賃貸業 |
サービス業 | サービス業 | サービス業 | |||
学術研究・専門・技術サービス業 | 学術研究・専門・技術サービス業 | ||||
飲食店・宿泊業 | 宿泊業・飲食サービス業 | 宿泊業・飲食サービス業 | |||
生活関連サービス業・娯楽業 | 生活関連サービス業・娯楽業 | ||||
教育・学習支援業 | 教育・学習支援業 | 教育・学習支援業 | |||
医療・福祉 | 医療・福祉 | 医療・福祉 | |||
複合サービス事業 | 複合サービス事業 | 複合サービス事業 | |||
その他のサービス業 | その他のサービス業 | その他のサービス業 | |||
その他公務 | その他公務 | その他公務 | その他公務 | その他公務 | その他公務 |
分類不能 | 分類不能 | 分類不能 | 分類不能 | 分類不能 | 分類不能 |
医療・福祉が独立した産業として分類されたのは 2005 年からである.また運輸・通信業が情報通信業と運輸・郵便業に分けられたのもこの年だ.
逆に林業は 2010 年から農業・林業とまとめて分類されるようになった.産業従事者の変遷を感じさせる.
この分類の再編成を視覚化する方法が思いつかない.Google Analytics の行動フローのようなチャートを EXCEL で作れないものか.
電気・ガス・熱供給・水道業はインフラ
そのような変遷の中においても,電力と水道は分類が変更されていない.まさしくインフラである.この業態の年齢階級の変遷を見てみよう.
よく見るグラフである.人口減少を反映して全体の従業員数も減少しつつある.同時に,人口の高齢化に伴い,高齢の従業員が内訳として増加しつつあることが分かる.
従業員の生まれた年で揃えてみたら?
少し見方を変えてみよう.従業員の生まれた年でデータをソートし,グラフにする.自分の生まれた年がどのセグメントにあるか,同じ色なので追いやすい.
全体として 40 代以上の世代が多いが,20 代と 30 代の世代もそれなりに入職してきており,技術継承に支障はないのではないかと思われる.
他の産業についてもグラフを作ってみた.
農業・林業
年齢分布が 50 代以上に偏っており,40 代以下の世代が農業を選んでいないことが分かる.あと一世代経過すると農業は危機を迎える.個人農家単位での事業継続は困難であり,集約化・大規模化は避けられない.
事業継承するなら単一の農場ではなく,近隣の農場をまとめて買収する必要がある.政府が補助金を出すべき産業はこの分野かもしれない.
しかし,それとて漫然と個人経営の農業従事者にばらまくのではなく,若い経営者が個人農場を買収合併する方向での戦略的融資を行うべきなのは言うまでもない.赤字経営の個人農場は市場から撤退させるべきである.
漁業
2番目に規模の小さい産業である.漁業の失敗の原因は農林水産省の総量規制が進まないことである.かといって近隣諸国の違法操業も放置はできない.国際的な枠組みが必要なのかも知れない.
漁業従事者の絶対数の減少は著しいが,最近の年齢分布は比較的均一であり,将来の事業継承についてはさほど悲観する必要はないのかも知れない.
鉱業
最も規模の小さい産業であるが,最近は従事者数が増加に転じている.年齢分布は比較的均一であり,将来性については楽観視できるのかも知れない.
製造業
3 番目に規模の大きい産業である.全体として従事者数は減ってきているが,年齢分布は比較的均一である.日本の産業の強みはやはり製造業にあるのかも知れない.
運輸・通信業
規模は 2 番目に大きく,かつ,従事者数が増加傾向にある.運輸とは物流と交通,つまり実体のあるものを運ぶ産業であり,通信はデータなど情報通信に細分化される.内訳として,運輸・郵便業は情報通信業の 2 倍の規模である.
成長分野であり,ここは民間が積極的に投資するから,政府がすべきは必要最小限の規制に留めることである.変に予算をつけると市場を歪ませる.
卸売・小売業・飲食店
金融・保険業
1995 年からの落ち込みが著しいが,ここ 10 年間は底を打ったようである.ここは IT との親和性が最も高く,既に米国の大手フィンテックでは AI による取引が主流となっており,トレーダーの大量解雇が起きていて,人の手を離れつつある.将来この分野は理学部数学科出身者でないと太刀打ちできなくなるだろう.
不動産業
2000 年から 2010 年にかけての成長が著しいが,2015 年になってやや鈍化傾向にある.個人的には不動産はいずれバブル崩壊すると見ているのだが,今後の経過を注視したい.
サービス業
いわゆる第3次産業である.若年層の年齢は人口母数を超えて幅広く分布しており,農林業に就業しなくなった若年層がここへ集中していると考えられる.最大規模の産業であり,高い付加価値が生産性向上に寄与していると考えられる.
教育・学習支援業
統計を取り始めてからまだ 5 年しか経過していないが,成長産業であることが見て取れる.
医療・福祉
人口減少社会にあって順調に従事者数を伸ばしており,かつ,各年齢階級がほぼ一定である.これは国家資格の定員が決まっているからでもある.大半は看護師と思われる.
大分類としてはサービス業であるが,医療機関や福祉施設の財源は政府によって一律に決められており,価格を自由に設定できない点でインフラであると個人的には考えている.
少子化の本当の恐ろしさとは
巷で盛んに言われているが,少子化の問題点は何だろうか.それは従業員の知的水準と数が両立しないということである.
つまり,従業員の知的水準を保つには,採用数を絞らなければならない.従業員数を保つなら,知的水準の維持は諦めなければならない.両者はトレードオフの関係にある.
その目で上のグラフを見ると,経済成長とはまた別の視点で捉え直すことができる.
従事者数の増えている産業にはバカが増えているかも知れない
一言でいうと,そういうことだ.どの産業分野にも「仕事ができない人間」がいる.いつも同じミスをする,顧客の言っていることが理解できずにトラブルになる,何度言って聞かせても理解できない…
残念ながら,仕事で要求される知的水準を下回る人間が生まれてくるのは避けられない.これまでは人口規模が大きかったためにそのような人間は試験で排除することができた.
しかし,今後は母体となる人口そのものが減少していくため,一定の数を確保しようとすると,試験の合格水準を下げるしかなくなる.これは特に国家資格において問題となる.給与というインセンティブがなくなれば,国家資格を取得する魅力がなくなり,知的水準の高い集団がまるごと他の産業に移ってしまう.現在の人材の偏重が決して良いとは言えないが,どこでバランスを取るのかは難しい問題である.
試験などの参入障壁がなく,従事者数の増えている産業には,この問題は既に起きている可能性がある.逆に,従事者数が人口と比例して減少している産業では,従業員の知的水準は比較的保たれている可能性がある.
まとめ
電力というインフラを維持するための従業員数を調べ始めたところ,国勢調査に手を出してしまった.ついでにすべての職業の大分類ごとの従事者数を可視化したくなった.
その際,よく見る年齢階級ごとに色分けしたグラフでは何かピンとこなかった.しかし,生まれた年でソートすると,生まれた年によってどの産業を選んでいるのかが手に取るように分かった.
従事者数の増えている産業は少なくとも当面は成長分野である.しかし,参入障壁のない産業では知的水準の低い人材が流れ込んできている可能性がある.いずれは国家資格などの要求水準の高い産業においても,人材の知的水準の低下が問題になる可能性がある.