ヨーロッパにおける冬季超過死亡率:主要リスク因子を同定した国家間分析

 日本の住宅の断熱性はクソだ!では感情的な投稿を行ったが,本稿ではデータをもとに住宅の断熱性能の重要性を述べる.この論文の提起する問題は皆が思っていることであるが,データで示されたのは初めてだと思う.

 論文自体はここから読める.全訳したが,筆者の英語力の乏しさゆえ,やや読解しにくいところはご容赦いただきたい.

要約

目的

 なぜある国では劇的に高い冬季死亡率を経験するのか,多くの議論がある.寒冷曝露以外に可能性のある潜在的な因子はこれまでほとんど解析されてこなかった.南欧での冬季超過死亡率の調査は比較的少ない.主要な関連を同定するため,様々なリスク因子における複数の時系列データが14のヨーロッパ諸国において季節死亡率に対して解析された.

対象と設定

 超過死亡率(全死因),1988年から1997年,EU14カ国.

デザイン

 EU14カ国の死亡率の季節変動係数を月死亡率データから計算した.匹敵する,気候,マクロ経済,ヘルスケア,生活習慣,社会経済および住宅に関連する縦断データセットもまた取得した.ポアソン回帰にて経時的に季節的相関を同定した.

結果

 ポルトガルの冬季超過死亡率が最も高く(28%, CI = 25% – 31%),ついでスペイン(21%, CI = 19% – 23%)およびアイルランド(21%, CI = 18% – 24 %)であった.平均冬季環境温度(回帰係数β = 0.27),平均相対湿度(β = 0.54),パリティ調整後一人あたり国民所得(β = 1.08),一人当たり医療費(β = -1.19),所得貧困率(β = -0.47),格差(β = 0.97),剥奪(β = 0.11),燃料貧困(β = 0.44),および住宅熱基準のいくつかの指標における国家間変動は 5% レベルで冬季超過死亡率に相対的に有意に相関していることが判明した.強い正の相関は環境温度であり,強い負の相関は熱効率であり,南欧および西欧における住宅の基準がその季節性に強い役割を果たしていることを示している.

結論

 南欧および西欧における高い季節死亡率は屋内の寒冷環境を改善すること,医療費を増額すること,社会経済環境を改善することで減少できる可能性があり,結果として公平な所得配分に至る可能性がある.

導入

 冬季超過死亡率は医学雑誌に過去約150年間にわたって掲載[1]されてきており,大多数の国で5%から30%にものぼる[2].しかし今なお,ある国では他の国と比べて季節性死亡率が劇的に高い理由について多くの議論がある.屋内外での寒冷による緊張がいくつかの状況では関係してきた[3,4,5]が,しかし(寒冷緊張以外の)他の潜在的因子はほとんど解析されてこなかった.加えて,南欧での死亡率の季節変動についての報告もほとんどなかった[6,7].これは,それらの国々では温暖な冬季の環境ゆえに冬季超過死亡には関係がないとの認識に起因するのかもしれない.この論文ではそのような認識が大間違いであることを示す.

 健康被害に相関する生物学的・遺伝的状態に相関する因子[8]の他に,人々の健康は3つの大きなカテゴリに集約される膨大な数の因子に影響される[9].まず,環境因子(社会的,経済的および自然環境)は健康格差に主要な役割を果たし,例えば死亡率は国のマクロ経済的健康に負の影響を及ぼす[10,11].国家の教育関連支出も多くの人々の幸福に相関していることが明らかになった[12,13].仮に,一人当たりGDPや公教育支出で計測されるような発展の社会経済レベルが人口の健康(および,ゆえに死亡率)の重要な指標であるなら,冬季超過死亡率との関係が成り立つかを見ることには利益があると考えられる.

 次に,医療提供および医療費は,絶対的にも相対的にも,健康に相関する主要な変数である.両者は様々な文脈で,年間全死亡率と負の相関があると判明している[14,15].本研究では冬季超過死亡率における国家間変動がヨーロッパにおける医療サービスの基準における変動と相関するかを同定するために医療提供の様々な指標を検査する.

 最後に,環境および生活習慣はともに国の経済発展レベルに強く相関している[15].生活習慣のリスク因子(例えば喫煙率は肥満同様に[18,19]健康被害と早期死亡率に高度に相関する[16,17])と非季節性死亡率とを解析した膨大な文献はあるが,死亡率における季節変動のそれらの因子の潜在的な影響を調査した研究はほとんど存在しない.さらに,考慮すべき疫学的文献が存在し,それらは年間全死亡率と社会経済的指標,例えば所得貧困[20,21],格差[22,23],剥奪[24,25]などと様々な程度の(正の)相関があることを示している.小規模な医学論文は燃料貧困(および貧弱な屋内熱効率)と冬季超過死亡率との相関について考察して明らかにしている[3,4,5,26].死亡率における季節変動のこれらすべての因子の相対的重要性はこれまで示されてこなかった.本論文の基礎はこれらの因子と冬季超過死亡率との広大な関連のマクロの解析を示すことであり,これは初めてのことであるが,14のヨーロッパ諸国の縦断的冬季死亡を調査した全ヨーロッパの解析および,相関を同定するための様々なリスク因子の複数の時系列データを季節性死亡率に対して回帰分析したものである.

方法

 過去10年間の時系列(1988-1997)をベースライン解析のために選択した.1997年以降では全14カ国のデータが得られなかった.冬季超過死亡率を次のように定義した.冬季間(12月から3月)に発生した超過死亡数を非冬季間の平均と比較したもので,閏年は調整した.この4ヶ月間が14カ国の気候の特徴に最も適していた.季節死亡率の相対的定義はこの論文に従い[27],達成すべき冬季超過死亡率の国家間比較ができるようになった.死亡率の季節変動の係数は次の式を用いて計算し,季節死亡率の下限推定値として作用する.

 

CSVM = [fdeaths(Dec+Jan+Feb+Mar)]-[fdeaths(Apr+May+Jun+Jul)+fdeaths(Aug+Sep+Oct+Nov)/2]

 

全体を次で除算する.

 

[fdeaths(Apr+May+Jun+Jul)+fdeaths(Aug+Sep+Oct+Nov)/2]

 

 全14のヨーロッパ諸国がその解析に使われ,経済的および社会的特徴で補正され,同様の粗死亡率を示した(人口1000人あたり9-11人の死亡).毎月の死亡率データは独自に国連データバンクを通じて取得した.毎月の死亡率データが得られない場合は続けて個別にその国に接触した.

 ポアソン回帰モデルがデータに最も適していると考えられ,各リスク因子に経時的な季節性との相関の同定に用いた.月ごとの平均気象データ(降水量,相対湿度および環境温度)はMeteotest Meteonorm V4.0 CD ROMを用いて取得した.これは気象学的コンピュータプログラムで,地球全体の数百もの気象ステーションの30年間の平均値が納められている.それぞれの人口分散を考慮してその国の気候を最も代表するように慎重に気象ステーションを選択した.気象学者との広範な議論の後,ほとんどの場合,その国の人口の最大のシェアを持つために,その気象ステーションはその国の首都にあるものが選ばれた.しかし,人口が分散していて気候が目に見えて異なる国のため(イタリアやフランスなど),南北勾配が用いられた.つまり,それぞれの気候を代表し,最も人口の密集する2つの気象ステーションの平均値を用いた.

 マクロ経済指標の縦断的データセットは国連統計局および世界銀行から取得した.喫煙や肥満のような生活習慣リスク因子,医療サービス提供を含む時系列データも世界銀行から取得した.4つの社会経済変数データを,1994年から97年の4年間をカバーする縦断的ユーザーデータベースのEuropean Community Household Panelを用いて計算した.この調査は最初の比較可能な国家間データベースであり,EUの社会指標に基づく.1994年に開始されたばかりで,これに先立つこのような社会経済的指標を考慮した国家間データがヨーロッパには存在しない.この点を考慮して,冬季超過死亡率を全14カ国について比較可能な時系列(1994年から97年)を用いて社会経済的部門のモデルにおいて再計算した.所得貧困は,国家間研究でしばしば用いられるように[28,29],購買力で調整した同等の所得の中央値の60%を貧困の閾値に割り付けて計算した.所得格差はジニ係数計測を用いて計算した.剥奪は物質的および社会的剥奪の複数の指標の複合インデックスを用いて計算した[30].燃料貧困のレベルは最近の全ヨーロッパの貧困家庭の燃料解析から取得し,その推定値は住宅の状態の適切な指標,住宅を暖房する手頃な価格および合意に基づくアプローチに基づくエネルギー効率レベルを用いて計算した[31].ヨーロッパの住宅の熱効率基準のデータはEurostatおよび更新されたアイルランドの新築調査から得られ[32,33],ノルウェーとスウェーデンはこの熱データの解析に含まれたが,スペインとイタリアは含まれなかった.

結果

EU14カ国における冬季超過死亡率

 1988年から1997年の間,結果の示すところによると,ポルトガルがヨーロッパにおける死亡率において最高の季節変動を有しており,約28%以上の平均死亡率の冬季間の上昇を伴い,各年で8800名の冬の早期死亡に相当する.アイルランドもまた約21%の上昇と特に厳しい(各年で2000名の冬の超過死亡).スペインも同様の係数を示す(21%, 19000死亡).イングランド,ウェールズ,北アイルランドおよびスコットランドは正確にはいずれも独立しているがUKとしており,非常に高い季節性係数を有している.イングランドが最高レベル(19%, 31000死亡),ついでウェールズ(17%, 1800死亡),北アイルランド(17%, 800死亡),そしてスコットランド(16%, 3100死亡).全体としては,英国は平均季節率18%,1年で37000名の冬季超過死亡を呈している.ギリシャは比較的高い冬季超過死亡率を示し(18%),年間5700名の冬季の早期死亡を示している.さらに,イタリアは16%を示し,これは27000名の超過死亡に相当する.逆に,フィンランド,ドイツ,オランダは冬季超過死亡率が低い.平均係数の信頼区間をTable1に示す.

Table 1 Coefficient of seasonal variation in mortality (CSVM) in EU-14 (mean, 1988-97)
  CSVM 95% CI
Austria 0.14 0.12 – 0.16
Belgium 0.13 0.09 – 0.17
Denmark 0.12 0.10 – 0.14
FInland 0.10 0.07 – 0.13
France 0.13 0.11 – 0.15
Germany 0.11 0.09 – 0.13
Greece 0.18 0.15 – 0.21
Ireland 0.21 0.18 – 0.24
Italy 0.16 0.14 – 0.18
Luxenbourg 0.12 0.08 – 0.16
Netherlands 0.11 0.09 – 0.13
Porutugal 0.28 0.25 – 0.31
Spain 0.21 0.19 – 0.23
UK 0.18 0.16 – 0.20
Mean 0.16 0.14 – 0.18

冬季超過死亡率と気候

 環境温度,降水量および湿度の平均冬季計測値を相対的冬季超過死亡率の結果に対して解析した.その結果が示すところによると,平均冬季環境温度や平均冬季降水量などの気候変数がヨーロッパにおける相対的冬季超過死亡率のレベルに正相関していることが判明した.高度に有意な回帰係数0.27が環境温度を巡って見出された(p<0.001).この正の相関は『冬季超過死亡率のパラドックス』と呼ばれる.そのパラドックスは,より過酷でなく,より温暖な冬の気象で,それ以外は全て等しく,寒冷緊張および寒冷関連死亡率の可能性があるとはみなされていない地域での死亡率がより高くなる,という事実からなる.この結果は,寒冷曝露と年間の死亡率との間に見られる典型的で正常な逆の関係が冬季超過死亡率では保たれないことを示唆している.住宅基準がこのパラドックスの背景の潜在的な原因因子として関連している[3,4,5].年間の気候が比較的温暖な国は屋内熱効率が貧弱な傾向がある.このため,これらの国では冬が来たときに家を温暖に保つことが最も難しくなる.これはポルトガル,スペインおよびアイルランドで顕著な例であり,そこでの冬の温度は比較的温暖で冬季超過死亡率は非常に高い.たいてい,気候の厳しい国,例えばスカンジナビア諸国では,住宅は暖かさを保たなければならない温度需要として熱効率を高く維持しなくてはならない.

 一般的に健康を損ねることとの相関がいくつか発見されているにも関わらず,湿潤(あるいは湿度)の死亡率に対する相対的重要性に関する研究はほとんど見つからない[29].本研究では相対湿度の全体レベルとヨーロッパにおける相対的冬季超過死亡率との相関をいくつか見出した.有意な回帰係数0.23(p=0.02)が報告された.平均冬季降水量と超過死亡との相関も有意と判明した(回帰係数0.54, p<0.001).

冬季超過死亡率とマクロ経済因子

 本研究の結果は,マクロ経済がヨーロッパにおける冬季超過死亡率のレベルと強く相関していることを示している(p<0.001).その相関は一人当たりGDPのより高い裕福な国ほど(ルクセンブルク,ドイツ,デンマーク)死亡率における季節変動が低くなることを示している.次の会話は正しかったわけだ.EUの4つの結束国(ギリシャ,アイルランド,スペイン,ポルトガル)は冬の間の死亡率変動が最も大きいと.本研究は冬季超過死亡率が,教育の公的支出と相関する非季節性死亡率には従わないことを示した.一人あたりの初等教育及び中等教育支出の両者は冬季超過死亡率とは有意な相関を認めなかった(p=0.07, 0.06)(Table2参照)

Table 2 Coefficient of seasonal variation in mortality and climatic and macroeconomic variables in EU-14
Table 2 Coefficient of seasonal variation in mortality and climatic and macroeconomic variables in EU-14

冬季超過死亡率と医療提供

 本研究は医療提供の様々な指標とヨーロッパ全土にわたる死亡率における季節変動との間に強い相関を見出した.一人当たりGNPのパーセンテージとしての総医療費は冬季超過死亡率と中等度に相関していた.国家収入の比較的高い割合を医療に費やしている国(フランス,ドイツ)では,医療費支出が相対的に低い国(ポルトガル,アイルランド)よりもより低い季節性死亡率を示した.データを分解してみると,公的医療費は季節死亡率とより強い相関を示し(回帰係数0.6, p=0.001),一方で私的医療費はそのモデルではより低い相関の変動であると判明した(p=0.11).繰り返すが,ポルトガル,アイルランドおよびギリシャのような国は(それらの国は皆一人当たりGNPの5%以下しか公的医療費に費やしていない)ヨーロッパにおいて冬季超過死亡率において最高の変動を示した.(購買力パリティで調整した)一人当たり医療費支出はヨーロッパにおける冬季超過死亡率に最も強く相関しており,回帰係数は-1.19(p<0.001)であった.しかし,病床数(人口1000人あたり)は死亡率の季節変動として有意ではなく(p=0.44),(人口1000人あたり)一般開業医の数も同様で相対的冬季超過死亡率との相関は見られなかった(p=0.67)(Table3参照).

Table 3 Coefficient of seasonal variation in mortality and healthcare provision in EU-13
Table 3 Coefficient of seasonal variation in mortality and healthcare provision in EU-13

冬季超過死亡率と生活習慣リスク因子

 本章での所見はマクロレベルの生活習慣危険因子とヨーロッパ全土にわたる季節性死亡率との間にはなんの相関も認めなかったことを示している.まず,喫煙率は13の国で相対的冬季超過死亡率とは有意な相関は見られなかった(p=0.34).これの示すところは,喫煙は非季節性死亡率を用いた死亡率と健康状態に強く相関している一方で,季節性死亡率には有意なリスク因子には見えないということである.その同じテストを今度は肥満レベル,健康被害および早期死亡率の主要な別のリスク因子に適用してみる.再び,同様の結果が得られ,肥満と冬季超過死亡率との間には明らかな相関は認められなかった.ゆえに,冬季超過死亡率レベルが生活習慣危険因子と相関するという仮説は棄却された.

冬季超過死亡率と社会経済因子

 本研究は今やEU14カ国の4つの主要な社会経済指標を検査する.縦断的なEuropean Community Household Panel(1994-97)からの最新データを使い,所得貧困,所得格差,複数の剥奪および燃料貧困のレベルを検査した.死亡率における季節変動の係数は本章で比較可能な時系列を用いて再計算したが,ギリシャのデータが季節性のレベルで4%下落を示したにも関わらず,相対的冬季超過死亡率は相対的に静的のままであった.国家間の強い相関が超過死亡率と所得貧困,ジニ係数を用いた格差,複合的複数の剥奪レベルおよび燃料貧困の複数のレベルとの間で認められた.所得貧困と格差の高いレベルの国は(ギリシャ,アイルランド,ポルトガル)死亡率における季節変動の高い係数を示した(table4参照).

Coefficient of seasonal variation in mortality, socio economic indicators and lifestyle risk factors in EU-14
Table 4 Coefficient of seasonal variation in mortality, socio economic indicators and lifestyle risk factors in EU-14

冬季超過死亡率と住宅熱効率

 仮に住宅基準が最低一部でも西欧における明らかな冬季超過死亡率のレベルのために責められるなら[3,4,5],ゆえに季節性死亡率の変動と異なる住宅基準との間の経験的な関係があるのかどうか同定するために屋内の熱効率のデータを解析することには利益がある.Table5にこの検査の結果を示す.熱効率の模範的なレベルはスカンジナビア諸国で見られる.スウェーデン,ノルウェーおよびフィンランドは,これらの国で経験する比較的厳しい屋外環境と戦うために屋内に非常に高い熱効率基準を持つ.しかし,西欧及び南欧で得られたデータから熱基準は,空洞壁断熱,屋根断熱,床断熱及び二重ガラス窓などの省エネルギー対策の普及率の低さを示している.これは特にポルトガルとギリシャで顕著な例であり,アイルランドと英国もまた相対的に貧弱である.仮相関分析は変数間の中等度の相関を生み出す一方,国家間レベルの空洞壁断熱,二重窓ガラスおよび床断熱がすべてそのモデルでは5%レベルで有意であった(p=0.02, p=0.02, p=0.03)にも関わらず,回帰検定は冬季超過死亡とエネルギー効率との間にはさほど堅牢な相関を示してはいない.

Table 5 Coefficient of seasonal variation in mortality and domestic thermal efficiency in EU-13
  CSVM Cavity wall insulation (% houses) Roof insulation (% houses) Floor insulation (% houses) Double glazing (% houses)
Austria 0.14 26 37 11 53
Belgium 0.13 42 43 12 62
Denmark 0.12 65 76 63 91
Finland 0.10 100 100 100 100
France 0.13 68 71 24 52
Germany 0.11 24 42 15 88
Greece 0.18 12 16 6 8
Ireland 0.21 42 72 22 33
Netherlands 0.11 47 53 27 78
Norway 0.12 85 77 88 98
Porutugal 0.28 6 6 2 3
Sweden 0.12 100 100 100 100
UK 0.18 25 90 4 61

考察

 1988年から97年のデータを用いて,相対的超過死亡率は南欧,アイルランド及び英国において最も高いことが判明し,その地域の季節性は死亡率の18%から28%になると計算された(table6参照).スカンジナビアおよび他の北欧諸国は相対的にその問題の影響を受けない.この結果は驚くべきことであり,特に死亡率に季節性が存在するとみなす研究が事実上存在しない南欧においてそうである.逆説的に,平均環境温が5°Cを上回るような,冬の気候が最も温暖な諸国は,季節死亡率において最も高い変動を示した.他の気候変数,例えば冬の平均降水量や相対湿度は,冬季超過死亡において国家間変動に有意な相関は見られなかった.しかし,国家間の冬の平均環境温度と相対的冬季超過死亡率の間で示された強い相関は,特定の人口が他よりも寒冷曝露に対して脆弱であることを示している.さらに,国家間の住宅の熱効率基準で得られたデータは,最も貧弱な住宅を有するそれらの諸国(ポルトガル,ギリシャ,アイルランドおよび英国)で冬季超過死亡率が最も高いことを示している.仮に人口を寒波から保護する能力が南欧および西欧において宣告された季節性における主要因子であるなら,以前より言及されているように[3,4,5,26],住宅の熱基準を改善することは,突出した超過死亡に対する予防的介入となる可能性がある.このような健康戦略は,本研究が示したように,最もエネルギー効率の貧弱なそれらの南欧および西欧諸国において燃料貧困の軽減に寄与する可能性もある[34].

Table 6 Results of regression model: cross country relations with relative excess winter mortality (regression coefficients and significance)
Table 6 Results of regression model: cross country relations with relative excess winter mortality (regression coefficients and significance)

 幸福の社会経済指標(貧困,所得格差,剥奪および燃料貧困)もまた冬季超過死亡率の国家間のレベルと相関する.これは,オランダにおける縦断的解析で示されたように[35],特に所得の分散がより大きな諸国においては,冬季超過死亡率のレベルが社会経済的発展に伴って減少しうることを示唆している.マクロ経済データは冬季超過死亡率のレベルが一人当たりGNPに相関するが,教育に対する国家の支出とは相関しないことを示している.生活習慣リスク因子もまた,年間全死亡率とは違って,死亡率における季節変動には相関しない.しかし,多くの医療提供指標が季節死亡率における国家間変動と有意に相関する.公的医療費は一人当たりGNP,一人当たり医療費で調整した購買力および病床率の割合として強い相関が報告されている.最後の指標は最も憂慮すべきで,資源が逼迫しているとき,病床不足の可能性が冬の季節死亡率の増加につながることである.その知見は,特にアイルランドとスペインだが,相対的に病床率が低く,入院期間が短いそれらの国で懸念の原因となる.

 本研究には生態学的デザインによる多くの制約がある.標準化されたデータセットを取得するのが困難なため,国家間解析はしばしば問題を抱えている.そのような大規模なマクロデータセットを扱い,これらがエラーを起こす際には,多くの仮定と近似がなされなければならなかった.しかし,複数の国の生態学的比較に関連する潜在的な不確実性を補正するための努力のもと,最高品質の縦断データを得る際には細心の注意が払われた.本研究では因果関係を示すことはできなかったが,環境温度との強い正の相関関係と,同等に強い住宅における熱基準との相関関係は,南欧および西欧における住宅の熱基準を改善することがそれらの諸国で見られる死亡率における巨大な季節変動を減少させるのに強い役割を果たす可能性があることを示唆している.それらの結果は,より寒冷な北の地域よりも南欧および西欧での死亡率における大きな影響を示唆する多施設共同研究[5]の仕事を解き明かす.

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