ピーナッツかぼちゃのポタージュ

 普段我々が口にしているかぼちゃは西洋かぼちゃであるが,これでポタージュを作っても喉ごしがザラザラしていて子どもたちは食べてくれない.どうしても生クリームを使うことになってしまう.

 生クリームを使いたくない場合,ピーナッツかぼちゃを使うという手がある.今回はピーナッツかぼちゃのポタージュのレシピを紹介する.例によって子どもたちが食べてくれるものでなくてはならない.

©Wikipedia

 ピーナッツかぼちゃはバターナッツかぼちゃともいう.正式にはバターナッツ・スクワッシュという.日本かぼちゃの一種だが,原産地はアメリカであるとされる.食物繊維が少ないため,滑らかな口当たりである.

 店頭での選び方であるが,実際に手に取ってみて,ずっしりと重い感じのするものを選ぶと良い.ひょうたんのような形をしている.下部の球体部に種があり,上部の首の部分に種はない.無農薬で栽培されたピーナッツかぼちゃには虫の卵が産み付けられていることがあり,割ってみると幼虫がうごめいていてぎょっとすることがある.その場合でも虫卵は下部の球体部にのみ産み付けられており,上部の首の部分は無事であることがある.

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タイチンは’winding filament’なのか?筋収縮における新たなねじれ

 収縮に関与する蛋白質はこれまでアクチンとミオシンとされてきた.しかし最近,伸張性収縮(エキセントリック,ネガティブ)様式においてタイチンの果たす役割が明らかになりつつある.今回はタイチンについて述べた論文を紹介する.

 訳に揺れが見られるがご容赦を.新規の分野の翻訳には気を使う.’winding filament’ は無理に訳すと「巻きつきフィラメント」とでもなるだろうが,おそらく英語のままにしておいた方が定着しやすいだろう.この用語については山本義徳氏が著書において言及している.

 筋収縮の際にアクチンとミオシンが ATP を消費して動力を発生させることはよく知られており,これをフィラメント滑走説という.実は数十年前からこれ以外にも弾性線維の存在を示唆する実験結果が得られており, ‘elastic filament’ と呼称されていたが,フィラメント滑走説で多くの人が納得してしまい,研究は細々としか続いていなかった.

 一方,トレーニーの間ではポジティブ収縮よりもネガティブ収縮の方が重い重量を扱えることが経験的に分かっていたが,フィラメント滑走説ではこの矛盾を説明できなかった.

 自動車に例えてみよう.エンジンの回転はシャフトを通じてギヤボックスに伝達される.アクチンとミオシンはエンジンとギヤボックスのセットである.そして,エンジンもミオシンも,一方向にしか動力を発生できない.これはギヤボックスにローギヤしか搭載しておらず,リバースギヤが存在しないのと同じである.そんな車はバックができない!ネガティブ収縮とは,高速道路を走っている最中にギヤをリバースに入れるようなものである.オートマ車はそもそもギヤがリバースに入らないよう安全装置が組み込まれているが,マニュアル車ならあっという間にクラッチが焼き付いてエンストしてしまう.

 フィラメント滑走説ではミオシン頭部のパワーストロークはポジティブ収縮の際にしか動力を発生できないはずであるが,実際にはネガティブ収縮の時にも動力は発生しており,しかもネガティブ収縮の方が出力が大きい.では,その動力源は何なのか?そしてこの差分の動力はどこから来ているのか?

 電子顕微鏡による観察では,ミオシンの末端はフリーではなく, Z 盤に繋ぎ止める蛋白質の存在が指摘されており弾性フィラメントとして機能しているに違いないと言われてきた.この蛋白質は Y 字型をしているため免疫グロブリン (Ig) と表現されるが,もちろん形質細胞から分泌される本物の免疫グロブリンではない.そもそも大きさが全く違う.本物の免疫グロブリンの分子量はたった 25,000 だが,今話題にしているタイチンは 370 万もある.

 電子顕微鏡の解像度は理論上は 0.1 nm とされているが,真空中で撮影しなければならないという制約のため,タイチン分子に外力を加えるとどのようにふるまうのかについてはよく分かっていなかった.そのため,様々な仮説が立てられた.

 この疑問を説明しうる機序として,この ‘winding filament’ 仮説が有力視されてきた.

 ざっくり説明すると,ポジティブ収縮の際にミオシンが発生する動力の大部分は収縮そのものに消費されるが,その一部が弾性ポテンシャルエナジーとしてタイチン分子内に蓄積され,ネガティブ収縮の際に放出されるのである.その蓄積の機序を最初に説明したのが ‘winding filament’ 仮説である.最初に「巻きつき」と書いたが,タイチンがアクチンに巻きついて弾性ポテンシャルエナジーを蓄積しているのではないか,そしてネガティブ収縮の際には巻きついたタイチンがほどけて蓄積したエネルギーを開放するためにポジティブ収縮よりも強い出力が得られるのではないか,というのが本論文の趣旨である.

 しかし実はこの ‘winding filament’ 仮説は,最新の研究で否定されつつあるように見える.原子間力顕微鏡および磁気ピンセットによる研究ではタイチン分子の折りたたみが関わる,いわゆる titin folding 仮説 が優勢である.この分野はホットな領域であり,今後の研究が待たれる.

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NTTフレッツ光でんわ解約に関するトラブル

 最近では各家庭に光回線が普及している.俺の家も建築時から光回線を引いているが,毎月の回線契約料がもっと安くならないか,請求書が届くたびに考えていた.今回思い切ってひかり電話を解約したところ,予想外のトラブルに見舞われたため,その経緯を報告する.

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筋肉,運動および肥満:分泌臓器としての筋肉

 NHK スペシャル「人体」シリーズ第 2 集「驚きのパワー!“脂肪と筋肉”が命を守る」で紹介されていた論文である.筋肉もまた様々なメッセージ物質を出して体内の臓器と対話している分泌臓器である,という視座を提供した点でこの論文の功績は大きい.2018 年 7 月時点での被引用回数は 1000 を超える.

 筋トレはもはやボディビルダーやトレーニーの専売特許ではない.単に肉体を改造するだけでなく,代謝疾患や癌など人間を苦しめる病気を予防する優れた手段であることが,最新の科学研究によって分かってきた.運動が人の生命予後を改善することは疫学的には分かっていたのだが,その分子生物学的な機序がようやく明らかになってきた.今回はこの論文の全訳を紹介する.

 この論文の著者はコペンハーゲン大学の Bente Klarlund Pedersen 博士だが,論文引用の順番がきちんと文章通りになっていて非常に読みやすい.普通の論文だと引用の順番がぐちゃぐちゃで大変読みにくいのだが,きちんとした人なんだろうなと思わされる.いや,どうでもいいんだけどね.

https://www.nhk.or.jp/kenko/special/jintai/sp_4.html

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テキストのないPDFファイルからテキストを抽出するには

 先日公開した記事トレーニングの最適化:安全な筋力トレーニングにおける新しい進展で参照していた引用元の論文からダウンロードできるファイルは PDF であるが,画像として保存されており,テキスト情報が抽出できなかった.以前ならスキャナから OCR ソフトで文字情報を抽出したが,最近だと Google ドキュメントが優秀なので,こちらを使ってテキスト情報を抽出してみた.

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トレーニングの最適化:安全な筋力トレーニングにおける新しい進展

 低強度と高強度との筋力トレーニングにおける筋力と筋肥大の適応,システマティックレビューとメタアナリシスにおいて参考文献の一つに挙げられていた論文を抄訳する.ロシアからの筋生検を含む貴重な報告である.このような侵襲的な検査は旧共産圏だから可能なのかも知れない.

 トレーニング負荷の軽重の違いで肥大する筋繊維の型が異なる,という引用だけを抜粋するつもりだったのが,筋形成調節遺伝子にまで言及しており,ほぼ全訳となってしまった.二週間もかかってしまうのでは効率が悪すぎるのだが,ここは勉強と思って我慢しよう.

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